はじめに
令和5年度補正予算では、持続的賃上げや所得向上、地方の成長などは、新しい資本主義を推進するテーマとして政府が重視しています。物価高への対策では、持続的な賃上げを企業に求めなければなりません。持続的な賃上げには、職場の省力化で生産性を向上させる狙いが考えられます。
そのため、省力化をキーワードとした、さまざまな補助金が発表されています。
今回は、「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金(以下、大規模成長補助金)」について解説します。また、「中小企業省力化投資補助事業 省力化投資補助枠(カタログ型)」(以下、カタログ型省力化補助金)と「ものづくり補助金 省力化(オーダーメイド)枠」(以下、省力化オーダーメイド枠)の違いについて比較しているので、ぜひ参考にしてください。
令和5年度補正予算の省力化補助金、中堅企業は申請できない?
では、中小企業よりも規模の大きな事業者が活用できる省力化補助金はないのでしょうか。
結論から言うと、中小企業の定義を超えた中堅企業でも申請ができる省力化に係る補助金では、「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」があります。
大規模成長補助金の補助対象者
補助対象者は、従業員数2,000人以下の中堅・中小企業者となっています。(みなし大企業を除く)中小企業の範囲を超える中堅企業向けの支援として申請できます。
その区分を超える企業は、大企業に該当するため、応募できません。また、従業員数が2,000人以下でもみなし大企業(大企業傘下の企業)は、補助金対象外となるので注意が必要です。
みなし大企業とは、実質的に大企業とみなされる企業のことです。法律での定義はなく、事業再構築補助金やものづくり補助金では以下のように規定されています。
等があります。
発行済株式の総数または出資価格の総額の2分の1以上を同一の大企業が所有している中小企業者等
発行済株式の総数または出資価格の総額の3分の2以上を大企業が所有している中小企業者等
大企業の役員又は職員を兼ねている者が役員総数の2分の1以上を占めている中小企業者等
発行済株式の総数又は出資価格の総数を上記1~3に該当する中小企業者が所有している中小企業者等
1~3に該当する中小企業者の役員又は職員を兼ねている者が役員総数の全てを占めている中小企業者
出典:事業再構築補助金、ものづくり補助金 公募要領
申請時に「実は対象外だった」なんてことがないよう、申請準備を進める前に、自社は該当するのかどうか注意しておきましょう。
大規模な投資が可能な大規模成長補助金
中堅・中小企業向けの大規模成長補助金 | |
---|---|
補助上限額 | 50億円 |
投資下限額 | 10億円 |
補助率 | 3分の1 |
成果目標 | ●労働生産性の抜本的な向上 |
大規模成長補助金は、補助上限額が50億円まで支援を受けることが可能な、大規模が設備投資に対して支援する制度です。
補助率が3分の1のため、最大150億円の投資を行った場合、最大の補助金額50億円を受け取る可能性がある、という計算です。
ただし、投資下限額が10億円と定められているため、10億円未満の設備投資は補助対象外となります。
補助事業者(事務局)については、民間企業を対象に公募していましたが、2024年1月12日に、㈱博報堂とTOPPAN㈱がコンソーシアム形式による申請で採択されました。
カタログ型省力化補助金・ものづくり補助金の省力化オーダーメイド枠との違いは?
ものづくり補助金のオーダーメイド枠 | カタログ型省力化補助金 | |
---|---|---|
予算規模 | 2,000億円(中小企業生産性革命推進事業)に含まれる | 1,000億円(中小企業省力化投資補助事業) |
目的 | 中小企業や小規模事業者の成長投資を加速化と事業環境の変化などを継続的に支援 | 中小企業などの省力化投資支援 |
補助上限金額 | ●従業員数5名以下:750万円(1,000万円) | ●従業員数5名以下:200万円(300万円) |
補助率 | ●中小企業:2分の1 | 2分の1 |
省力化補助金には、中堅・中小企業を対象にした補助金以外にカタログ型省力化補助金があります。カタログ型省力化補助金は、中小企業や小規模事業者向けの補助金です。補助事業の内容は、製造業の賃上げや飲食店の人手不足などの解消が目的になっています。そのうえで生産性の向上も目指す取り組みになるでしょう。
カタログ型省力化補助金は、設備投資で導入する製品やサービスをカタログから選べる点が特徴です。カタログで提示されている製品やサービスは、省力化補助金の対象となっているため、企業ごとの条件に適したものを選ぶだけで進められます。補助を受ける企業だけではなく、仲介する補助事業者にとっても効率的な仕組みの補助金システムではないでしょうか。
ものづくり補助金
中小企業を対象とした補助金事業には、同じく生産性向上を目的とする、ものづくり補助金もあります。ものづくり補助金の支援目的は、次のとおりです。
革新的なサービス開発
試作品開発
生産プロセスの改善
カタログ型省力化補助金と比較!
中堅・中小企業向けの省力化補助金 | カタログ型省力化補助金 | |
---|---|---|
予算規模 | 1,000億円 | 1,000億円 |
目的 | ●中堅・中小企業の人手不足の課題に対し、成長を目指した大規模投資の促進 | 中小企業などの省力化投資支援 |
担当部署 | ●経済産業政策局産業創造課 | ●中小企業経営支援部技術・経営革新課 |
補助上限金額 | 50億円 | ●従業員数5名以下:200万円(300万円) |
対象設備 | 工場などの拠点新設 | IoTやAI、ロボットなどの汎用製品 |
補助対象者 | 中堅・中小企業(従業員数2,000人未満・みなし大企業以外) | 中小企業など |
中堅・中小企業向けの省力化補助金 | カタログ型省力化補助金 | |
---|---|---|
事業スキームの事務局となる補助事業者 | 民間企業等 | 独立行政法人中小企業基盤整備機構 |
事業スキーム | 国→民間企業等→中堅・中小企業 | 国→独立行政法人中小企業基盤整備機構→中小企業等 |
中堅・中小企業向けの省力化補助金とカタログ型省力化補助金の予算規模は、どちらも1,000億円規模になっています。
ただし、中堅・中小企業向けの大規模成長補助金は、国庫債務負担を含めると総額で3,000億円までの予算額です。
カタログ型省力化補助金は、従来の中小企業等事業再構築促進事業(事業再構築補助金)が再編され、総額5,000億円の予算額となります。
目的
中堅・中小企業向けの大規模成長補助金とカタログ型省力化補助金の目的は、どちらも人手不足解消と生産性向上による賃上げとなっています。目的に対して、補助対象の企業規模や補助額などで補助額範囲が異なってくるでしょう。
また、目的の先にある成果目標は、次のとおりです。
中堅・中小企業向けの大規模成長補助金 | カタログ型省力化補助金 | |
---|---|---|
成果目標 | ●大規模投資で事業全体の生産性を向上 | ●付加価値額の増加 |
中堅・中小企業向けの大規模成長補助金とカタログ型省力化補助金の事業概要は、大規模成長投資と即効性のある点で変わってきます。
中堅・中小企業向けの大規模成長補助金の概要
中堅・中小企業向けの大規模成長補助金の概要は、次のとおりです。
中堅中小企業の持続的な賃上げを目的にした補助金
現状の人手不足解消に向けた省力化への取り組み
労働生産性の抜本的な向上に向けた取り組み
事業規模拡大を目的にした工場等の拠点進出
大規模な設備投資への補助
カタログ型省力化補助金が補助枠となる中小企業省力化投資補助事業は、補助対象の汎用製品を選択する形式になっています。あらかじめ導入可能な省力化となる汎用製品をカタログから選ぶことで、効率的な省力化投資になるでしょう。
補助上限金額
中堅・中小企業向けの大規模成長補助金とカタログ型省力化補助金の補助上限金額は、次のように定められています。
中堅・中小企業向けの大規模成長補助金 | カタログ型省力化補助金 | |
---|---|---|
補助上限金額 | 50億円 | ●従業員数5名以下:200万円(300万円) |
複数企業で構成される共同企業体が同じサービスで事業展開していれば、合算で10億円以上が対象になるでしょう。
対象設備
中堅・中小企業向けの大規模成長補助金とカタログ型省力化補助金の補助対象となる設備は、規模的な違いになるでしょう。
中堅・中小企業向けの大規模成長補助金 | カタログ型省力化補助金 | |
補助対象設備 | ●工場等の拠点新設 | ●IoT、ロボット、AI等の人手不足解消に役立つ汎用製品 |
カタログ型省力化補助金の場合は、事業全体というより部分的な省力化への補助となるでしょう。たとえば、宿泊業のフロント受付にAIやロボットで動作する汎用製品を導入するなどが考えられます。大規模成長補助金のように、建物費などは補助対象経費には含まれないと想定され、より身近で取り組みやすい投資となるでしょう。
まとめ
しかし、中堅企業でも申請できる補助金があります。中堅企業で省力化投資を検討している場合、中堅・中小企業向けの大規模成長補助金の利用が可能です。中堅・中小企業向けの省力化補助金は、大規模な成長投資を目指している中堅企業や中小企業が対象になります。
また、今回は他にも設備投資を支援する補助金の参考として、ものづくり補助金とカタログ型省力化補助金の違いも紹介してきました。ものづくり補助金は、中小企業や小規模事業者向けのオーダーメイドの省力化投資を支援する補助金で、カタログ型省力化補助金はカタログに掲載された設備の投資が可能になります。
今回紹介した補助金は、企業が抱える課題の人手不足解消や賃上げを目指す取り組みとなります。補助金は、要件を満たしている企業が受け取る権利のある原則返済不要なお金です。自社の目的と導入後のビジョンを見据え、検討してみてはいかがでしょうか。
省力化補助金編集部
シェアビジョン株式会社
認定支援機関(認定経営革新等支援機関※)である、シェアビジョン株式会社において、80%以上の採択率を誇る申請書を作成してきたメンバーによる編集部が監修・執筆しています。
当社は、2017年の会社設立以来、ものづくり補助金や事業再構築補助金等の補助金申請サポートをはじめとしたコンサルティングサービスを提供してまいりました。『顧客・従業員のビジョンを共有し、その実現をサポートすることで社会の発展と幸福を追求する』を経営理念とし、中小企業の経営者のビジョンに寄り添い、ビジネスの課題を解決するための手助けをしています。支援してきたクライアントは1,300社以上、業界は製造業、建設業、卸売業、小売業、飲食業など多岐に渡ります。このブログでは、中小企業の経営者にとって有益な情報を分かりやすくお届けしてまいります。
※認定経営革新等支援機関とは?
中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にあると国が認定した経営相談先です。全国各地に3万箇所以上の認定支援機関があり、税理士、税理士法人、公認会計士、中小企業診断士、商工会・商工会議所、金融機関、経営コンサルティング会社等が選出されています。認定支援機関を活用することで、補助金申請だけでなく、財務状況、財務内容、経営状況に関する調査・分析までを支援するため、自社の経営課題の「見える化」に役立ちます。
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