よって、ものづくり補助金を申請する際、サービス産業で応募する事業者は、「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」との関連性を示す必要があります。しかしながら、一般的に「生産性向上」という言葉に結びつきやすいのは製造業などの業種で、サービス産業の場合はそもそも「生産」という言葉になじみがありません。製造業では、『製造工程の効率化や設備導入により生産性を向上する』等すぐに思い浮かべることができますが、サービス産業の場合は目に見えるものを提供しているわけではなく、具体的にイメージすることが難しいと言えます。
「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」は、そのようなサービス産業の事業者にも「生産性向上」という言葉をあてはめ、経営課題を解決する際に取組みの方向性や具体的手法を考えるための参考になる指針です。
審査項目の1つ
応募申請する事業分野(「試作品開発・生産プロセス改善」又は「サービス開発・新提供方式導入」)に応じて、事業計画と「中小企業の特定ものづくり基盤技術の高度化に関する指針」又は「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」との関連性を説明してください。
審査項目の「技術面」においても、第一に「「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」に沿った取り組みであるか(要約)」と記されており、非常に重要な項目として扱われていることが判ります。
中小サービス業者が目指すべき生産性の向上
人手不足が顕在化する中、良い人材を確保するために相応の賃金とやりがいがある職場作りが必要とされ、事業者は賃金も利益も確保する経営を目指すことが求められます。
このためには、労働者一人当たりの生産性を高めること、つまり「労働生産性」の向上が必要となります。
労働生産性を「一人当たりの付加価値額」として計算するには下記の計算式を用います。
労働生産性を向上するためには
付加価値の向上 | 提供するサービスの価値を増大させる(売上向上) |
効率の向上 | 時間や工程の短縮(コスト削減) |
これを実現する具体的な手法が以下にまとめられます。
1. 付加価値の向上 | 1) 誰に | (1)新規顧客層への展開 |
2) 何を | (3)独自性・独創性の発揮 | |
3) どうやって | (7)機能分化・連携 | |
2. 効率の向上 | (9)サービス提供プロセスの改善 |
「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」との関連性を示す
労働生産性の向上のための具体策を示した表は、それぞれの項目をPDCAサイクルにザックリと分類しています。付加価値額向上のために「誰に」「何を」「どうやって」そして効率の向上の「どのように」を踏まえて、項目ごとに関連性を示し、要約して説明します。
誰に(新規顧客層への展開、商圏の拡大)
事業内容のターゲットを絞ります。新サービスで「新規顧客層」にアプローチしていくか、あるいは又は同時に、商圏を広げていくか、属性や既存商圏に注意しながら考えます。何を(独自性・独創性の発揮と、ブランド力の強化、顧客満⾜度の向上、価値や品質の見える化)
ものづくり補助金の事業目的である革新的サービス開発につながる重要項目です。この項目の関連性が、いわゆる「革新性」の説明になるので、しっかりと検討する必要があります。どうやって(機能分化・連携、IT 利活用(付加価値向上に繋がる利活用)
自社の提供するサービスに最大限の付加価値を提供するため、どうプロセスを分化し、外部と連携をとってゆくか考えます。または、ITを利用し活用して、サービスの質を高めて行きます。
人手不足でなかなか増員も難しい昨今、それでも付加価値を向上するためには、今あるリソースを再配置して効率化を進めたり、機械化をはかって無駄をなくし、コストの削減につなげる必要があります。ITの便利ツールを活用することも効率の向上に含まれます。
なお、全ての手法に共通して重要なこととして、事業実施中の状況に応じて事業計画を修正できるよう、事前に業務改善にあたっての手順(PDCAサイクル)を定め、設定した事業目標に沿って柔軟かつ継続的に実施することが必要です。
事業計画では、付加価値の向上や効率の向上が実現できる取り組みであるかを検証し、計画書内でガイドラインに沿った取り組みであると説明しましょう。
船着 貴弘
シェアビジョン株式会社取締役
2000年立命館大学卒業後、株式会社エフアンドエム入社(東証JASDAQ上場)。主に税理士・公認会計士向けサービスの営業企画部門担当及びファイナンシャル・プランナー(FP)部門担当。真の顧客のためのアドバイスや金融商品の取扱いを広めることに社会的意義を見出す。その後、FP部門の譲渡に伴い、2015年に譲渡先である総合保険代理店へ。保険代理店においても、継続しFP部門担当を務めるとともに、業務基幹システムの導入等を経営企画室にて行う。2017年に総合保険代理店を退社し、シェアビジョン株式会社取締役に就任。現在に至る。