この記事のポイント
生産性革命推進事業の一部に創設
地域経済の成長を牽引する100億円企業の創出が重要視されている
「売上高100億円を目指す宣言」の内容が公開
宣言は2025年2月に募集要領公開、5月頃に申請開始予定に
100億企業への税制優遇措置も拡充
はじめに
中小企業や小規模事業者は雇用の約7割、付加価値額の5割を占める日本経済の屋台骨とも言われています。地域経済や雇用を支える存在ですが、コロナ禍からの経済回復や人口減少に対応した省力化対策、GX・DX等の構造が転換されつつあり、中小企業政策も「守りから攻め」「維持から変革」「静から動」へと変化すべきであると考えられています。
2024年12月17日に令和6年度補正予算が成立されました。中小企業関連の予算として、中小企業生産性革命推進事業に100億企業を目指す中小企業を支援する「中小企業成長加速化補助金」が新設されます。2025年3月末までに公募要領が公開される予定で、事務局公募要領によると、2026年度末までに3回程度の公募が行われる予定です。詳細についてはまだ情報待ちの部分がありますが、この記事では、中小企業成長加速化補助金の要件である「売上高100億円を目指す宣言」や、新設された背景やについて解説します。
中小企業生産性革命推進事業とは
令和6年度補正予算では以下の内容になりました。
中小企業成長加速化支援事業(中小企業成長加速化補助金)
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業(ものづくり補助金)
サービス等生産性向上IT導入支援事業(IT導入補助金)
小規模事業者持続的発展支援事業(持続化補助金)
事業承継・M&A支援事業(事業承継・引継ぎ補助金)
2025年注目 中小企業成長加速化補助金とは
![](https://wit-awscms-witweb.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/svltd/202501287bafa2ab68c7631675b039a74fab1267.png)
補正予算案が発表される前に予算1,000億円が充てられるとの噂がありましたが、同補助金自体の規模については公表されませんでした。
補助対象経費に建物費が計上されていますが、中小企業が活用できる補助金の中で、建物費が補助されるものは多くはありません。
補助金の活用イメージでも「工場、物流拠点などの新設・増築」とあるように、比較的規模の大きい投資を検討している場合でも活用しやすいといった特徴があります。
大規模成長投資補助金との比較
補助金名 | 投資額 | 補助上限額 | 補助率 |
---|---|---|---|
成長加速化補助金 | 1億円以上 | 5億円 | 1/2 |
大規模成長投資補助金 | 10億円以上 | 50億円 | 1/3 |
100億円企業が目指される背景
中小企業が100億企業など中堅企業に成長する時に、外需獲得や域内経済牽引、賃上げに貢献しています。
しかしながら、売上高100億円以上の企業は、2023年の資料時点で1.4万社と企業数全体の0.4%しか満たしません。
2022年12月時点で、2002年、2012年と比較して売上高が1~10億円規模から100億円以上に成長した企業数は178社のみに留まります。
こういった状況から、政府としても、経済成長の実現に向けて成長企業創出の支援が重要であると考えられ、成長加速化補助金の新設に至ったと考えられます。
中小企業成長加速化補助金の要件
中小企業庁の出すPR資料に要件が公表されていました。
<要件>
投資額1億円以上
「売上高100億円を目指す宣言」を行っていること
その他、賃上げ要件など
専門家経費・外注費を除く補助対象経費分を合わせた投資額1億円以上が要件になっているように、大規模な投資が補助される補助金となります。
②「売上高100億円を目指す宣言」を行っていること
2025年春頃に開設予定のポータルサイトにて、公表する宣言です。以下で詳細を説明しますが、宣言の内容については現在検討中で、2025年2月に募集要領が公開、5月頃に申請が開始される予定です。
③その他、賃上げ要件など
賃上げ要件について詳細は未定ですが、給与支給総額の増加や最低賃金引上げなどの賃上げ要件が追加されると考えられます。
宣言のメリット
設備投資等に活用いただける「宣言」が条件となる補助金の申請が可能になります。申請には他にも必要書類を提出して審査されますが、成長加速化補助金では要件として満たさなければならないため、かえって宣言しないと申請できないとも言えます。
②経営者ネットワークへの参加
「宣言」を行った成長を目指す経営者が、地域・業種を超えて刺激し合える経営者ネットワークを構築できるイベントに参加できます。
このイベントは「宣言」を行った企業限定で開催されるもので、ネットワークや経営の気づきにつなげてほしいといった思惑があるようです。
③「宣言」マークの活用による自社PR
「宣言」を行った企業だけ「ロゴマーク」が使用可能となります。自社の取組のPRとして、コーポレートサイト等にて活用可能になります。
「売上高100億円を目指す宣言」とは?
宣言の具体的な内容については検討されていますが、以下が概要として発表されています。
<宣言の内容>
企業の現状(足下の売上高、賃上げ等企業目標、課題等)
売上高100億円の実現のための目標(売上高成長目標、期間、プロセス等)
売上高100億円の実現に向けた具体的措置(生産増強、海外展開、M&A等)
実施体制
経営者のコミットメント(経営者自らのメッセージ)等
![](https://wit-awscms-witweb.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/svltd/20250128dd99929804d32e4bd17c6fb860dcd42e.png)
特に最重要だと位置づけられている「現経営者の経営力強化」の他に、新たな人材の中小企業経営への参入として「次世代への承継・引継ぎと革新」、「M&A・グループ化」がテーマになるのではと考えられます。
中小企業の飛躍的成長のポイント:経営者の経営力強化
![](https://wit-awscms-witweb.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/svltd/202501285d293177dc43be0785bc52d630f487d9.png)
非成長市場であっても独自技術やニッチ分野にて高付加価値を提供できるようになるなど、競合他社と差別化したポジションが獲得できた企業が100億企業(売上が100億円に到達した企業)の特徴として挙げられています。
差別化された価値の提供のあり方(事業戦略)を明確にすること
経営者が既存の事業や資源に捉われずに優れた経営者との交流と学びの機会に出ていく等して経営力を磨くこと
これらの方向性に沿って、宣言では企業の課題に対してどのような体制でどのような事業戦略を打ち出していくのかを明確に示す必要がありそうです。
100億企業を対象とした税制優遇措置も拡充
中小企業経営強化税制とは、中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度で、2025年3月末日が適用期間となっていました。今回の税制改正で一部が見直された上で、2年延長となり、2027年3月末日まで適用されることになりました。
また今回、売上高100億円超を目指す成長意欲の高い中小企業の設備投資に対しては、適用要件等が見直され、拡充措置が創設されることが発表されました。
こちらの拡充措置を適用するためには、投資利益率が7%以上かつ経営規模拡大の要件を満たす必要があります。経営規模拡大の要件は以下の通りです。
①売上向上のための施策及び設備投資時期を示した行程表(ロードマップ)を作成
②基準事業年度の売上高が 10 億円超 90 億円未満である
③売上高 100 億円超を目指すための事業基盤、財務基盤及び組織基盤が整っていること
④売上高 100 億円超及び年平均 10%以上の売上高成長率を目指す投資計画であること
⑤次の要件を満たす設備投資を行う投資計画であること
・導入予定の設備が、売上高の増加に貢献するものであること
・経営力向上計画の認定を受けた日から2年以内に導入予定の設備の取得価額の合計額が、1億円と基準事業年度の売上高の5%相当額とのいずれか高い金額以上であること
・生産性の向上に資する設備の導入に伴い建物及びその附属設備の新設又は増設をするものであること
⑥投資計画の計画期間中において、給与等の支給額を増加させるものであること
⑦上記のほか、売上高 100 億円超を目指すために必要とされる要件を満たすこと
対象設備は、以下の通りです。
機械装置(160万円以上)
工具及び器具備品(30万円以上)
建物及び附属設備(合計額1,000万円以上)
ソフトウェア(70万円以上)
≪建物及び附属設備≫
・給与増加割合2.5%以上 ⇒ 特別償却15% 又は 税額控除1%
・給与増加割合5%以上 ⇒ 特別償却25% 又は 税額控除2%
≪機械装置、工具及び器具備品、ソフトウェア≫
・特別償却 即時償却
又は
・税額控除 10%(資本金3,000万円超の中小企業者等の場合7%)
今回の税制改正では、建物が対象設備となったことが、大きなポイントです。補助金の活用と合わせることで、大規模な投資への後押しになると思われます。
まとめ
この記事では100億円企業の創出に力を入れられている背景と、要件として新たに掲げられた「売上高100億円を目指す宣言」について、宣言の内容を国の政策の方向性に合わせて説明しました。
宣言の具体的な内容については今後の発表を待つ必要がありますが、宣言を活用した事業者限定のイベント参加が可能になり、経営者のネットワークづくりにも活用可能です。
宣言はポータルサイト上に公表されます。そのため、申請を検討されている方は、課題や目標、目標達成に向けてどのような事業戦略を取っていくのかなど、事前に準備して計画を策定する必要がありそうです。
売上高100億円を目指すために本補助金を有効活用したいと考えられている事業者の方は、補助金に精通している認定支援機関にぜひ一度ご相談ください。
ものづくり補助金編集部
シェアビジョン株式会社
認定支援機関(認定経営革新等支援機関※)である、シェアビジョン株式会社において、80%以上の採択率を誇る申請書を作成してきたメンバーによる編集部が監修・執筆しています。
当社は、2017年の会社設立以来、ものづくり補助金や事業再構築補助金等の補助金申請サポートをはじめとしたコンサルティングサービスを提供してまいりました。『顧客・従業員のビジョンを共有し、その実現をサポートすることで社会の発展と幸福を追求する』を経営理念とし、中小企業の経営者のビジョンに寄り添い、ビジネスの課題を解決するための手助けをしています。支援してきたクライアントは1,300社以上、業界は製造業、建設業、卸売業、小売業、飲食業など多岐に渡ります。このブログでは、中小企業の経営者にとって有益な情報を分かりやすくお届けしてまいります。
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中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にあると国が認定した経営相談先です。全国各地に3万箇所以上の認定支援機関があり、税理士、税理士法人、公認会計士、中小企業診断士、商工会・商工会議所、金融機関、経営コンサルティング会社等が選出されています。認定支援機関を活用することで、補助金申請だけでなく、財務状況、財務内容、経営状況に関する調査・分析までを支援するため、自社の経営課題の「見える化」に役立ちます。