はじめに
2024年は「1991年以来33年ぶりに5%を超える賃上げ率が実現した」と言われています。しかし、賃上げ率には企業規模による格差があり、中小企業の賃上げ率は4%に達していません。
そこで、中小企業が物価高騰などに負けない賃上げの実現に向けて、政府は様々な支援を進めています。
2024年11月29日、政府より令和6年度補正予算案(中小企業・小規模事業者等関連予算)が閣議決定されました。
公表された情報によると、「持続的な賃上げを実現するための生産性向上・省力化・成長投資支援」において、物価高や構造的な人手不足等、厳しい経営環境に直面する中小企業・小規模事業者の“稼ぐ力”を強化するため、予算・税・制度等の政策手段を総動員して支援することで、これらを通じ、賃上げ原資を確保し、持続的な賃上げにつなげるとしています。
→12月17日に補正予算について参議院本会議で採決が行われ、可決・成立しました。長年措置されてきて人気高いものづくり補助金を例に挙げると、力強い賃上げに取り組む中小企業を支援する意向から、賃上げ特例によって最大1,000万円の補助上限額のアップや1/2から2/3へ補助率の引き上げが行われることとなりました。
本記事では、賃上げが進む背景や賃上げが難しい原因を振り返りつつ、中小企業における賃上げの支援について解説します。
そもそも補助金とは?
補助金は単なる資金援助ではなく、社会の発展のために事業活動を後押しする政策にひとつといえます。
昨今、人気として挙げられている中小企業向けの補助金は以下のとおりです。
事業再構築補助金(前回公募で終了) | IT導入補助金 |
省力化投資補助金 | 小規模事業者持続化補助金 |
ものづくり補助金 | 事業承継・引継ぎ補助金 |
賃上げとは?
近年は物価高騰や経済環境の変化に伴い、2024年の春闘(労働組合が企業に対して賃上げなどの要求や交渉を行うこと)では平均5.25%の賃上げ率、16,379円の賃上げ額を発表し、33年ぶりに賃上げ率が5%を超えるなど、賃上げへの期待が高まっています。
賃上げが急増している背景
物価上昇への配慮
人材確保
賃上げ促進税制の導入
円安傾向や不安定な世界情勢により、エネルギーや原材料コストが高騰し、日本国内の物価上昇が進んでいます。
2024年2月の消費者物価指数(CPI)は107.2で、前年同月比より2.7%上昇していることからも、物価が継続的に上昇していることが分かります。
継続的な物価上昇が続くなか、企業は労働者の生活を維持できるような配慮が必要です。労働者の生活を守り、企業活動を維持するためにも、企業にとって賃上げは欠かせない取り組みと言えるでしょう。
・人材確保
少子高齢化の影響により、業種問わず人手不足が起きているなかで、優秀な人材を確保し、業績や生産性を向上させる目的で賃上げを実施する企業も増えています。
給与水準を上げることで、働くモチベーションの向上につながり、生産性の向上や人材流出の防止にも効果があります。実際に、人手が充足している企業は賃上げを行っている割合が高いという傾向も見られます。
・賃上げ促進税制の導入
2022年4月1日より、賃上げに取り組む企業向けに「賃上げ促進税制」が施行されています。
賃上げ促進税制は、企業が一定の要件を満たしたうえで、給与等の支給額を前年度よりも増加させた場合、その増加額の一部を法人税などから税額控除できる制度です。企業だけでなく労働者にとっても、給与の実質的な増加という直接的なメリットがあり、財政的な負担軽減につながります。
また、企業が賃上げを行うことで労働市場全体の給与水準が上昇し、労働者の就業条件の改善にもつながります。
中小企業による賃上げが難しい原因
令和6年10月の最低賃金の引き上げ
原材料や諸経費の価格高騰
価格転嫁ができない
令和6年10月の最低賃金改定により、全国加重平均額は1,055円となり、前年から+51円と大幅な引き上げが実施されました。この引き上げにより、多くの中小企業では給与形態の見直しを迫られています。
特に、非正規雇用労働者の多い業種では、人件費の大幅な増加が見込まれます。大企業と比較して、企業体力の弱い中小企業の負担は大きく、経営への深刻な影響が懸念されているのが現状です。
・原材料や諸経費の価格高騰
原材料や諸経費が増えれば支出も増え、賃上げに充てる資金を確保できません。原材料がなければ経営を続けることが難しくなるため、賃上げよりも原材料の調達が優先されるのが現状です。
近年は世界情勢の変化などの影響によって、様々な分野で原材料の高騰が見受けられます。支出増を避けることは難しく、多くの中小企業は賃上げをする余裕がなくなっています。
・価格転嫁できない
コストが増加したとしても価格転嫁できれば賃上げは可能です。しかし、取引先や消費者からの理解が得られず、利益が圧迫され賃上げすることができません。
中小企業の賃上げ支援を強化
<令和6年度補正予算案(中小企業・小規模事業者等関連予算)>
<国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策>
どの補助金に活用できるかはまだ明記されていませんが、「ITツール導入支援」は「IT導入補助金」、「システム構築・設備投資支援」は「令和5年度ものづくり補助金」の成果事例が参考として掲載されているため、これらの補助金は適用されるのではないかと考えられていました。
今回、国会で予算成立にて公表された資料によると、令和6年度補正予算案「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の概要において、補助率では最低賃金引上げ特例(補助率を2/3に引き上げ(小規模・再生事業者は除く)について明記されていることから、適用されることが確定しました。
これにより、以下のことが考えられます。
⇒補助金の活用によって賃上げを促進していく
中小企業が賃上げの原資を確保することを支援し、賃上げの普及・拡大を促進
省力化による生産性向上により、中小企業の稼ぐ力を強化
最低賃金引上げ特例とは?
<基本要件(以下の要件を全て満たす3~5年の事業計画書の策定及び実行)>
①付加価値額の年平均成長率が+3.0%以上増加
②1人あたり給与支給総額の年平均成長率が事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上または給与支給総額の年平均成長率が+2.0%以上増加
③事業所内最低賃金が事業実施都道府県における最低賃金+30円以上の水準
④次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表等(従業員21名以上の場合)
特例措置の要件も見ていきましょう。
前回のものづくり補助金18次公募では、補助率の引き上げに関する要件はなかったものの、補助率上限額を100~1,000万円引き上げる「大幅賃上げ特例」と要件はおおよそ同様であるといえます。
<大幅賃上げ特例の要件(18次公募)>
・給与支給総額を年平均成長率1.5%以上増加させることに加え、更に年平均成長率4.5%以上(合計で6%以上)増加させること
・事業場内最低賃金を毎年地域別最低賃金+50円以上の水準とすることを満たしたうえで、さらに事業場内最低賃金を毎年年額+50円以上増額すること
・応募時に、上記の達成に向けた具体的かつ詳細な事業計画を提出すること
①給与支給総額の年平均成長率+6.0%以上増加
②事業所内最低賃金が事業実施都道府県における最低賃金+50円以上の水準
19次公募では、①の給与支給総額については全体の年平均成長率は+6.0%と変わらないことが分かります。ただし、補助率を引き上げる最低賃金引上げ特例を活用した事業者や、各申請枠の上限額に達していない場合は利用することができません。
また、上記要件が未達の場合、受給した補助金の返還が求められる恐れがあるため、申請を考えている事業者は内容をよく押さえておきましょう。
<最低賃金引上げ特例要件>
指定する一定期間において、3か月以上地域別最低賃金+50円以内で雇用している従業員が全従業員数の30%以上いること
まとめ
現時点では、最新のものづくり補助金の公募要領は発表されていませんが、昨年の動向だと年末年始に公募要領が発表されることが考えられます。
補助金を使ってより多くの補助金額を受け取りたい、そのためには賃上げも積極的に行っていきたいといった事業者がいらっしゃいましたら、ものづくり補助金の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
注意点として、申請時に要件を満たした事業計画の策定が必要となるだけでなく、事業化状況報告といった報告義務によって成果が確認されます。そのため、補助金返還とならないよう事前に専門家のアドバイスを受けておくといいでしょう。
補助金を多く受け取りたい、賃上げに取り組みたいと考えていらっしゃる事業者の方は、ぜひ認定支援機関までご相談ください。
ものづくり補助金編集部
シェアビジョン株式会社
認定支援機関(認定経営革新等支援機関※)である、シェアビジョン株式会社において、80%以上の採択率を誇る申請書を作成してきたメンバーによる編集部が監修・執筆しています。
当社は、2017年の会社設立以来、ものづくり補助金や事業再構築補助金等の補助金申請サポートをはじめとしたコンサルティングサービスを提供してまいりました。『顧客・従業員のビジョンを共有し、その実現をサポートすることで社会の発展と幸福を追求する』を経営理念とし、中小企業の経営者のビジョンに寄り添い、ビジネスの課題を解決するための手助けをしています。支援してきたクライアントは1,300社以上、業界は製造業、建設業、卸売業、小売業、飲食業など多岐に渡ります。このブログでは、中小企業の経営者にとって有益な情報を分かりやすくお届けしてまいります。
※認定経営革新等支援機関とは?
中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にあると国が認定した経営相談先です。全国各地に3万箇所以上の認定支援機関があり、税理士、税理士法人、公認会計士、中小企業診断士、商工会・商工会議所、金融機関、経営コンサルティング会社等が選出されています。認定支援機関を活用することで、補助金申請だけでなく、財務状況、財務内容、経営状況に関する調査・分析までを支援するため、自社の経営課題の「見える化」に役立ちます。