この記事のポイント
新事業進出補助金は、自社で行ったことがない事業であることが絶対条件
2025年4月22日以降に始めた、新しい取り組みはOK
増産や製造方法の変更は対象外、容易な改良も採択の可能性は低い
既存事業とは異なる新しい顧客層へ販売していくことが必須
はじめに
補助金には、さまざまな要件があり、採択されるためにはそれらを満たした上で、高い評価を受けるための審査ポイントを押さえていく必要がありますが、新事業進出補助金では、その大前提となるのが「新事業進出指針」になります。
この記事では、新事業進出指針について、わかりやすく解説していきたいと思います。
新事業進出指針、3つの要件
➀製品等の新規性要件 | 新たに製造・提供する製品やサービスが、申請企業にとって新規性を有するものであること |
②市場の新規性要件 | 補助事業で新たに製造等する製品等の属する市場が、事業を行う中小企業等にとって、新たな市場であること |
③新事業売上高要件 | 新たな製品やサービスの売上高が、事業計画期間最終年度において、申請時の総売上高の10%以上、または付加価値額の15%以上となること |
要件➀:製品等の新規性
新事業進出補助金は、既存事業とは異なる新しい事業に進出するための補助金であるため、過去に取り組んだ実績のある製品やサービスについては、対象となりません。
「新規性」と聞くとハードルが高いように思われますが、ここでの「新規性」とは、自社にとっての新規性であり、世の中における新規性(日本初・世界初)ではないので、申請する事業を過去に行っていなければ、新規性は満たしていると言えます。
<製品等の新規性要件に該当しない例>
・増産 ・再製造 ・製造方法の変更 ・性能が変わらない改変
ここでは、本補助金の第1回公募開始日である、令和7年4月22日以降に初めて取り組んでいる事業が、新規性を有しているとみなされます。
計画内容や社内体制の検討・支援機関や取引先等への相談、市場調査などは、事業の開始とはみなされないため、令和7年4月22日より前から行っていても問題ありません。
令和7年4月22日より前に、製品・商品の販売や、サービスの宣伝を始めている取り組みについては、すでに事業を実施しているとみなされ、対象とならないため、注意しましょう。
また、新事業進出補助金は、中小企業による大胆な新事業進出を支援する観点から、容易に製造ができる、既存の製品を改良する、既存の製品を組み合わせて新製品を作る等の取り組みは、相対的に評価が低くなる場合があるため、採択されるのは難しいと思われます。
事業計画書では、今回の新しい取り組みが容易ではないことをアピールすることが大切です。
要件②:市場の新規性
新事業進出補助金では、製品等の新規性に加え、この事業での取り組みが企業にとって既存事業とは異なる顧客層に向けられていることが求められます。
具体的には、既存事業の顧客層と異なるニーズや属性を持つ顧客層を対象とする市場である必要があります。
ここでの属性とは、法人・個人の違いや、業種、行動特性等を指しています。
例えば、アイスクリームを提供していた事業者が、新たなメニューとしてかき氷を販売する場合は、単純に従来の顧客がアイスクリームの代わりにかき氷を購入すると考えられるため、顧客層は変わりません。
また、既存の取引先からの要請により、新たに別の製品を製造する場合も、顧客層は変わらないため、対象外となります。
要件③:新事業売上高10%以上
新たな製品やサービスの売上高が、事業計画期間最終年度において、申請時の総売上高の10%以上、または付加価値額の15%以上となることが求められます。
具体的な算出方法や根拠については、収支計画表を作成し、詳細に説明することが必要です。
売上高の10%(又は総付加価値額の15%)は申請するための最低条件です。新たな取組みの売上高の割合がより大きい方が、審査においてより高い評価を受けることができる場合があります。実現可能な範囲で、より高い目標を立てられると採択の可能性が高まるでしょう。
また、売上規模の大きい事業者では、この新事業売上高要件を満たすことが難しい場合もあるかと思われます。応募申請時の直近の事業年度の売上高が10億円以上であり、かつ、同事業年度の売上高のうち、新事業進出を行う事業部門の売上高が3億円以上である場合には、会社全体の売上ではなく、応募申請時の当該事業部門の売上高の10%(又は総付加価値額の15%)以上となることが見込まれる事業計画を策定することでも、要件を満たします。
製品等と市場の新規性を満たす例
例1:製造業①
ガソリン車の部品を製造していた事業者が、車両部品の製造で培った技術を活かして、新たに半導体製造装置の部品の製造に着手する
製品等の新規性 | ガソリン車の部品 ⇒ 半導体製造装置の部品 |
市場の新規性 | 自動車業界 ⇒ 半導体業界(業界が異なる) |
例2:製造業②
航空機用部品を製造していた事業者が、航空機部品の製造で培った技術を活かして、新たに医療機器部品の製造に着手する
製品等の新規性 | 航空機部品 ⇒ 医療機器部品 |
市場の新規性 | 航空機業界 ⇒ 医療機器業界(業界が異なる) |
例3:建設業
注文住宅の建設を行っていた事業者が、建設業で培った木材の知見を活かして、新たにオーダーメイドの木材家具の製造に取り組む
製品等の新規性 | 注文住宅の建設 ⇒ 木材家具の製造 |
市場の新規性 | 住宅居住者 ⇒ 家具購入者(属性が異なる) |
例4:印刷業
販促物の印刷を行っていた事業者が、既存事業での顧客対応力を活かして、新たに食堂等の内装工事事業に取り組む
製品等の新規性 | 販促物の印刷 ⇒ 食堂の内装工事 |
市場の新規性 | チラシ・ポスターを必要とする事業者 ⇒ 食堂の運営会社等 |
例5:情報サービス業
アプリやWEBサイトの開発を行っていた事業者が、既存事業でのノウハウを活かして、地域の特産物等を取り扱う地域商社型のECサイトの運営に取り組む
製品等の新規性 | アプリ・WEBサイトの開発 ⇒ 商社型ECサイトの運営 |
市場の新規性 | アプリ・WEBサイトの作成依頼者 ⇒ 自社の商品をECサイトに掲載したい事業者 |
まとめ
新たな事業への挑戦には、必ず不安とリスクが伴います。これまでのやり方を変えることは、成功してきた企業ほど大きな決断を要します。しかし、環境が大きく変化する昨今、現状にとどまることこそが最大のリスクになると言えるかもしれません。
「新事業進出指針」は、単に補助金の審査基準を示すものだけではありません。自社にとって何が新しいのか、どの市場に可能性があるのか、そしてその挑戦がどれほどのインパクトをもたらすのか。それらを明確にし、事業を根本から見直すきっかけを与えてくれるものにもなり得ます。
企業の成長・拡大のために、新事業へ前向きに挑戦しようという事業者の方は、ぜひご相談ください。
新事業進出補助金編集部
シェアビジョン株式会社
認定支援機関(認定経営革新等支援機関※)である、シェアビジョン株式会社において、80%以上の採択率を誇る申請書を作成してきたメンバーによる編集部が監修・執筆しています。
当社は、2017年の会社設立以来、ものづくり補助金や事業再構築補助金等の補助金申請サポートをはじめとしたコンサルティングサービスを提供してまいりました。『顧客・従業員のビジョンを共有し、その実現をサポートすることで社会の発展と幸福を追求する』を経営理念とし、中小企業の経営者のビジョンに寄り添い、ビジネスの課題を解決するための手助けをしています。支援してきたクライアントは1,300社以上、業界は製造業、建設業、卸売業、小売業、飲食業など多岐に渡ります。このブログでは、中小企業の経営者にとって有益な情報を分かりやすくお届けしてまいります。
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