はじめに
しかし、国の予算には上限があり、より良い事業を後押しするという観点から、各補助金にはその目的や趣旨に沿った「審査項目」が設けられています。各審査項目により合致した事業内容であるほど評価が高くなり、採択の可能性が上がります。
新事業進出補助金のホームページでは、事業計画テンプレートがアップされました。これは新事業進出補助金の申請項目を網羅した、事業計画作成用のテンプレートで、記載すべき項目が細かく分けられています。
このテンプレートに沿って準備を進めた上で、審査項目に沿った記載ができているかを改めて確認していきましょう。本記事では新設された新事業進出補助金の審査ポイントについて詳しく解説していきます。
書面審査の審査項目
補助対象事業としての適格性
新規事業の新市場性・高付加価値性
新規事業の有望度
事業の実現可能性
公的補助の必要性
政策面
大規模な賃上げ計画の妥当性(賃上げ特例適用時のみ)
加点項目
減点項目
書面審査の審査項目は、必ず押さえておきたい審査項目①~⑥の基本の項目と、賃上げ特例を希望する際に重要となる⑦大規模な賃上げ計画の妥当性、⑧加点項目、⑨減点項目の計9項目で構成されています。
基本の審査項目と確実に合致した申請書を作成しつつ、加点項目を取得し、減点項目にかからないようにすることが、採択の可能性を引き上げる近道となります。
第1回分の公募要領に記載されている審査項目は以下の通りです。
審査項目①:補助対象事業としての適格性
公募要領に記載の補助対象者、補助対象事業の要件、補助対象事業等を満たすか。
補助事業により高い付加価値の創出や賃上げを実現する目標値が設定されており、かつその目標値の実現可能性が高い事業計画となっているか。
補助事業で取り組む新規事業により製造又は提供する、製品又は商品若しくはサービスのジャンル・分野の、社会における一般的な普及度や認知度が低いものであるか。
同一のジャンル・分野の中で、当該新製品等が、高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであるか。

新市場性の審査にあたっては、製品等の「性能」「サイズ」「素材」「価格帯」「地域性」「業態」「顧客層」「効果」といった要素は排除されます。
例えば、「高精密小型医療機器部品の製造を行う事業」のジャンル区分は「医療機器部品」であり、「高精密」「小型」は含めません。同様に、「東京都港区で高級焼肉店を経営する事業」は「焼肉店」と区分し、「東京都港区」「高級」は含めません。
そのため、ここで言われている「新市場性」とは、日本初、世界初とまではいかなくても、比較的新しい分野での取り組みが求められることになります。
「新市場性」に該当しない場合は、本事業での取り組みが「高付加価値性」を満たさなくてはなりません。「高付加価値性」を選択すると、新たな取り組みが、一般的な付加価値や相場価格と比較して、高水準の高付加価値化を図るものであるかが審査されます。
また、高付加価値化の源泉となる価値・強みの分析が妥当なものであるかが審査されます。ここでの「高付加価値化の源泉となる価値・強み」とは、既存事業で培ってきた強み(ヒト・モノ・カネ・情報)です。自社の現在の取り組みが、新規事業でも活かせることをアピールしましょう。
この「新市場性」「高付加価値性」のどちらにも該当しない場合には、新事業進出補助金の指針に沿った取り組みといえないため、対象となりません。審査項目の中でも、重要度の高い項目であるため、公募要領や以下の資料を熟読の上、ポイントを押さえた記載を心がけましょう。審査項目③ 新規事業の有望度
補助事業で取り組む新規事業が、自社がアプローチ可能な範囲の中で、継続的に売上・利益を確保できるだけの市場規模を有しているか。成長が見込まれる市場か。
補助事業で取り組む新規事業が、自社にとって参入可能な事業であるか。
競合分析を実施した上で、顧客ニーズを基に、競合他社と比較して、自社に明確な優位性を確立する差別化が可能か。
また、免許や許認可等の制度的な面で参入可能かどうかを示します。
さらに、代替製品についてきちんと調べられているか、また事業者の優位性が簡単に他社に真似できるものでないかどうかを示す必要があります。
万が一類似のテーマや設備に関する応募が集中した場合は、別途審査が課されることもありますので、差別化や優位性はしっかりと練っておきましょう。
審査項目④:事業の実現可能性
事業化に向けて、中長期での補助事業の課題を検証できているか。また、事業化に至るまでの遂行方法、スケジュールや課題の解決方法が明確かつ妥当か。
最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか。金融機関等からの十分な資金の調達が見込めるか。
補助事業を適切に遂行し得る体制(人材、事務処理能力等)を確保出来ているか。第三者に過度に依存している事業ではないか。過度な多角化を行っているなど経営資源の確保が困難な状態となっていないか。
交付申請時点で事業計画書に記載の事業実施スケジュールどおりに進捗していない場合は、遅延の理由や事業実施可能性等を確認されます。事業の遂行が困難であると判断される場合は、採択取消等を行う場合もあるので、現実的なスケジュールを立て、具体的に記載しましょう。
審査項目⑤:公的補助の必要性
川上、川下への経済波及効果が大きい事業や社会的インフラを担う事業、新たな雇用を生み出す事業など、国が補助する積極的な理由がある事業はより高く評価。
補助事業として費用対効果(補助金の投入額に対して増額が想定される付加価値額の規模、生産性の向上、その実現性、事業の継続可能性等)が高いか。 先端的なデジタル技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、地域やサプライチェーンのイノベーションに貢献し得る事業か。
国からの補助がなくとも、自社単独で容易に事業を実施できるものではないか。
また、経済的波及効果や先端的なデジタル技術の活用等に言及できれば、評価が高まるでしょう。
審査項目⑥:政策面
関税影響等を含む経済社会の変化に伴い、今後より市場の成長や生産性の向上が見込まれる分野に進出することを通じて、日本経済の構造転換を促すことに資するか。
先端的なデジタル技術の活用、低炭素技術の活用、経済社会にとって特に重要な技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、我が国の経済成長・イノベーションを牽引し得るか。
ニッチ分野において、適切なマーケティング、独自性の高い製品・サービス開発、厳格な 品質管理などにより差別化を行い、グローバル市場でもトップの地位を築く潜在性を有しているか。
地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等に対する経済的波及効果を及ぼすことにより、大規模な雇用の創出や復興等を含む地域の経済成長を牽引する事業となることが期待できるか。
また、2025年4月25日に経済産業省が発表している資料『米国の関税措置に対する国内対応について』には、新事業補助金について、関税の影響を受けた事業者を優先採択するとあります。
事業計画テンプレートにも、米国の関税措置による影響を受けている又は影響を受けることが具体的に見込まれている場合に、具体的な影響の内容の記載欄があります。影響がある場合は、詳細に記載しましょう。
審査項目⑦:大規模な賃上げ計画の妥当性
大規模な賃上げの取組内容が具体的に示されており、その記載内容や算出根拠が妥当なものとなっているか。
一時的な賃上げの計画となっておらず、将来にわたり、継続的に利益の増加等を人件費に充当しているか。
採択率アップにつながる加点項目
以下に示す9項目の加点項目を満たす事業者は、審査で一定程度の加点が行われます。加点項目は応募締切日時点で満たしている必要があることに注意しましょう。加えて、ものづくり補助金においては加点項目についての申請制限が設けられていましたが、新事業進出補助金においては「一定程度の加点」となっており、上限が設けられていないため、なるべく多くの加点を満たせると採択の可能性があがります。
また、以下の加点項目は中小企業庁が実施する他の補助金においても加点項目として扱われていることが多いため、補助金利用を視野にいれている方は取得しておくことをお勧めします。
パートナーシップ構築宣言加点
「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトにて宣言の公表をしている事業者。
・パートナーシップ構築宣言くるみん加点
次世代育成支援対策推進法に基づく「くるみん認定」を受けた事業者。えるぼし加点
女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)に基づく「えるぼし認定」を受けている事業者。アトツギ甲子園加点
アトツギ甲子園のピッチ大会に出場した事業者。
・アトツギ甲子園健康経営優良法人加点
健康経営優良法人2025 に認定されている事業者。技術情報管理認証制度加点
技術情報管理認証制度の認証を取得している事業者。成長加速化マッチングサービス加点
「成長加速マッチングサービス」において会員登録を行い、挑戦課題を登録している事業者。
・成長加速マッチングサービス再生事業者加点
特定事業者加点
減点項目に注意!
加点項目に対して、3つの減点項目も存在します。こちらは、該当してしまった場合審査において一定もしくは大幅な減点を受ける可能性がありますので、注意しましょう。
①加点項目要件未達事業者
中小企業庁が所轄する補助金(ものづくり補助金、事業再構築補助金等)において、賃上げの加点を受けたうえで採択されたにもかかわらず、加点項目要件を達成できなかった場合には、未達が報告されてから18か月の間本補助金の申請にあたって大幅な減点が行われます。
②過剰投資の抑制
特定の期間に、類似のテーマ・設備等に関する申請が集中してなされている場合には、一時的流行による過剰投資誘発の恐れがあるため、別途審査が行われます。
過剰投資と判断された申請に関しては、事業計画書に記載されている市場分析の通りに事業を実施することが困難であると考えられるため、大幅な減点を受けてしまいます。
新事業進出補助金の前身である事業再構築補助金では、一時期、シミュレーションゴルフ、セルフエステ、サウナ、フルーツサンド販売店等の特定の内容に偏っているという指摘があり、補助事業の適正使用について批判がありました。安易な流行に乗じた取り組みは、この減点項目にかかる可能性もあるため、注意しましょう。
③他の補助事業の事業化が進展していない事業者
過去に新事業進出補助金、事業再構築補助金、ものづくり補助金を受給しており、直近の事業化状況報告における事業化段階(※)が3段階以下である場合は大幅で減点されます。
第1段階:製品の販売、又はサービスの提供に関する宣伝等を行っている。
第2段階:注文(契約)が取れている。
第3段階:製品が1つ以上販売されている、又はサービスが1回以上提供されている。
第4段階:継続的に販売・提供実績はあるが利益は上がっていない。
第5段階:継続的に販売・提供実績があり利益が上がっている。
口頭審査への備えもぬかりなく
審査内容としては、本補助金に申請された事業計画について、事業の適格性、優位性、実現可能性、継続可能性等の観点について審査されます。
所要時間は15分程度で、オンラインにて実施されます。審査は申請事業者自身1名が対応しなければならず、事業計画書作成支援者や経営コンサルタントなどの対応・同席は認められませんのでご注意ください。
最後に
その上で、記載した内容が、審査ポイントを押さえられているかを確認することで、新事業進出補助金の採択を勝ち取ることができる確率が上がります。
事業計画のブラッシュアップには、専門家である認定経営革新等支援機関の活用も有効です。新事業進出補助金の申請を検討されている事業者の方は、ぜひ一度、シェアビジョンにご相談ください。
新事業進出補助金編集部
シェアビジョン株式会社
認定支援機関(認定経営革新等支援機関※)である、シェアビジョン株式会社において、80%以上の採択率を誇る申請書を作成してきたメンバーによる編集部が監修・執筆しています。
当社は、2017年の会社設立以来、ものづくり補助金や事業再構築補助金等の補助金申請サポートをはじめとしたコンサルティングサービスを提供してまいりました。『顧客・従業員のビジョンを共有し、その実現をサポートすることで社会の発展と幸福を追求する』を経営理念とし、中小企業の経営者のビジョンに寄り添い、ビジネスの課題を解決するための手助けをしています。支援してきたクライアントは1,300社以上、業界は製造業、建設業、卸売業、小売業、飲食業など多岐に渡ります。このブログでは、中小企業の経営者にとって有益な情報を分かりやすくお届けしてまいります。
※認定経営革新等支援機関とは?
中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にあると国が認定した経営相談先です。全国各地に3万箇所以上の認定支援機関があり、税理士、税理士法人、公認会計士、中小企業診断士、商工会・商工会議所、金融機関、経営コンサルティング会社等が選出されています。認定支援機関を活用することで、補助金申請だけでなく、財務状況、財務内容、経営状況に関する調査・分析までを支援するため、自社の経営課題の「見える化」に役立ちます。