事業再構築補助金において、事業再構築指針を構成する5つの要素のどれかに該当していないと申請することができません。この記事では、そのうちの事業再構築指針「事業転換」について説明します。
事業再構築指針とは
「事業再構築」とは、「新市場進出(新分野展開、業態展開)」、「事業転換」、「業種転換」、「事業再編」又は「国内回帰」の5つを指し、本事業に申請するためには、これら5つのうち、いずれかの類型に該当する事業計画を認定支援機関と策定することが必要となります。
事業再構築の類型と要件
類型 | 必要となる要件 |
---|---|
新市場進出 | ①製品等の新規性要件 ②市場の新規性要件 ③新事業売上高10%等要件 |
事業転換 | ①製品等の新規性要件 ②市場の新規性要件 ③売上高構成比要件 |
業種転換 | ①製品等の新規性要件 ②市場の新規性要件 ③売上高構成比要件 |
事業再編 | ①組織再編要件 ②その他の事業再構築要件 |
国内回帰 | ①海外製造等要件 ②導入設備の先進性要件 ③新事業売上高10%等要件 |
<事業転換>
「事業転換」とは、新たな製品等を製造等することにより、主なる業種を変更することなく、主なる事業を変更することを指します。
「事業転換」に該当するためには、「製品等の新規性要件」、「市場の新規性要件」、「売上高構成比要件」の3つを満たす必要があります。
過去に製造等した実績がないこと
定量的に性能又は効能が異なること(製品等の性能や効能が定量的に計測できる場合に限る)
(例)既存製品と比べ、新製品の強度、耐久性、軽さ、加工性、精度等が、X%向上する等
「過去に製造等した実績がないこと」を満たさない場合
「定量的に性能又は効能が異なること」を満たさない場合
その他の場合
「既存の製品等の製造量等を増やす場合」、「既存の製品等に容易な改変を加えた新製品等を製造等する場合」、「既存の製品等を単純に組み合わせただけの新製品等を製造等をする場合」等
既存事業と新規事業の顧客層が異なること
(例)日本料理店が、新たにオンラインの料理教室を始める場合、既存事業の顧客は店舗で飲食する方であるのに対し、新規事業の顧客は料理を学びたい方であり、顧客の対象が明確に異なり、市場の新規性要件を満たすと考えられる
既存事業と新規事業の顧客層が異なること」を満たさない場合
例)アイスクリームを提供していた事業者が、新たにかき氷を販売するが、単純に従来の顧客がアイスクリームの代わりにかき氷を購入することを想定する事業計画を策定した場合、顧客層が変わらず、市場の新規性を満たさないと考えられる
3~5年間の事業計画期間終了後、新たな製品等の属する事業が、売上高構成比の最も高い事業となる計画を策定すること ※売上高10%要件は不要
「事業転換」の要件を満たす例
・飲食サービス業の場合
日本料理店が、換気の徹底によりコロナの感染リスクが低いとされ、足元業績が好調な焼肉店を新たに開業し、3年間の事業計画期間終了後時点において、焼肉事業の売上高構成比が、標準産業分類の細分類ベースで最も高い事業となる計画を作成している場合
日本標準産業分類
【大分類】M宿泊業、飲食サービス業、【中分類】76飲食店、
【小分類】762専門料理店
【細分類】7621日本料理店⇒7625焼肉店(細分類ベースで事業転換)
要件 | 要件を満たす考え方 | |
---|---|---|
製品等の | 過去に製造等した | 過去に焼肉店を営んだことがなければ、要件を満たす |
定量的に性能又は | 日本料理店と焼肉店では、提供する商品が異なり、定量的に性能又は効能を比較することが難しいことを示すことで要件を満たす | |
市場の新規性要件 | 例えば、大衆向けとして沖縄料理を提供している日本料理店が、高価格帯の商品を提供する焼肉店を始める場合、異なる顧客のニーズに応えるものであることから要件を満たす | |
売上高構成比要件 | 「日本料理店」と「焼肉店」は、日本標準産業分類の細分類ベースで異なる分類がなされている。従って、3年間の事業計画期間終了時点において、焼肉事業の売上の構成比が、日本標準産業分類細分類ベースで最も高くなる計画を策定していれば、要件を満たすこととなる |
・製造業の場合
プレス加工用金型を製造している下請事業者が、業績不振を打破するため、これまで培った金属加工技術を用いて、新たに産業用ロボット製造業を開始し、5年間の事業計画期間終了後において、産業用ロボット製造業の売上高構成比が、日本標準産業分類の細分類ベースで最も高い事業となる計画を作成している場合
日本標準産業分類
【大分類】E製造業、【中分類】生産用機械器具製造業、
【小分類】269その他の生産用機械・同部分品製造業
【細分類】2691金属用金型・同部分品・附属品製造業⇒2694ロボット製造業
(細分類ベースで事業転換)
要件 | 要件を満たす考え方 | |
---|---|---|
製品等の | 過去に製造等した | 新たに製造する産業用ロボットが、過去に製造した実績のない部品であれば、要件を満たす |
定量的に性能又は | 新たに製造する産業用ロボットと従来製造していたプレス加工用金型が異なる製品であれば、定量的に性能又は効能を比較することが難しいことを示すことで要件を満たす | |
市場の新規性要件 | 既存事業の対象顧客はプレス加工を要する製造業者であったが、新規事業では産業用ロボットを製造しプレス加工を要する製造業者に限らず、あらゆる製造業者向けの製品提供を行うため顧客層が異なることを説明することで、要件を満たす | |
売上高構成比要件 | 「金属用金型製造業」と「ロボット製造業」は、日本標準産業分類の細分類ベースで異なる分類がなされている。従って、5年間の事業計画期間終了時点において、ロボット製造業の売上構成比が、日本標準産業分類細分類ベースで最も高くなる計画を策定していれば、要件を満たすこととなる |
船着 貴弘
シェアビジョン株式会社取締役
1976年12月生まれ。 2000年立命館大学卒業後、株式会社エフアンドエム入社(東証JASDAQ上場)。主に税理士・公認会計士向けサービスの営業企画部門担当及びファイナンシャル・プランナー(FP)部門担当。真の顧客のためのアドバイスや金融商品の取扱いを広めることに社会的意義を見出す。その後、FP部門の譲渡に伴い、2015年に譲渡先である総合保険代理店へ。保険代理店においても、継続しFP部門担当を務めるとともに、業務基幹システムの導入等を経営企画室にて行う。2017年に総合保険代理店を退社し、シェアビジョン株式会社取締役に就任。現在に至る。